家族で稽古

家族でと言っても実質は娘二人のための稽古というべきかな。長女の純帆は何で空手をやっているのかがいまいち分かってなくてね。空手をやっているといざというときに平常心で動けることとか、黒帯くらいになると一目置かれたりとか、いろいろ話してみたよ。俺の義理の母も空手を続けることを積極的に勧めてくれててね。空手をやると暴力的になるんじゃないかとか、表面でしか物事を観れない人間には到底理解できないようなことはよく起きる。空手をやっててよかったと思うことはよくあるよ。別に人に絡まれたりとか、そんな物騒なことを除外してもね。話してみたら純帆は「わかった」と言ってたな。次女の臨にはまだ理解できないことだけどな。本人はどうやったら上手にできるかを真剣に考えているようだ。確かに空手なんて表面だけを観ればただの格闘技。そんな勝ち負けを意識して何の価値があるのっていうことになるんだろうが、勝てるようになるためには相当冷静さが求められるしな。勝った負けたとかそんな事柄を超えたところに武道の奥深さがあるんだけどさ。純帆にはまだわからないだろうなぁ。だけど、そんなことを考えるようになったんだなぁ。俺は空手を始めたころはただ喧嘩に強くなることでいっぱいでな。気が付くと何もかも虚しくなってきて、一時期は空手から離れてみたこともある。でもやっぱり空手が好きでな。気が付いたら生涯武道修行しか考えなくなったけどな。臨はこれからそんなことを考える時期が来るのかもね。なんでこんなことやってるのかなぁってさ。これから俺は道場を留守にすることも出てくるかもしれない。そうなると裕子は様子を見て師範代に昇格させる必要が出てくるだろう。裕子もそういう意味では覚悟を決めた感じがする。少し前までは一人で教えるなんてことは覚悟なんてしてなかったけどな。