斬撃

今日、うちの治療室のある患者さんの出入りを禁止した。その人の予約は今後受け付けない。患者さんの出入りを禁止したのは初めてだよ。予約を入れておいてすっぽかすなんてことはよくあるよ。ただし、そうなったら患者さん自ら来なくなるものだ。その人の無断キャンセルは手足の指じゃ足りないくらいの数に上る。一時期、それを許してその人の家の敷地内の建物を道場として借りたりもした。お金は10万ほどかけて使えるようにしてさ。それも3か月使ったところで立ち退き命令を出してきてね。その後、あちらからの謝罪はあったが、また治療予約を無断キャンセル。裕子はもうカンカンだよ。印刷会社の社長だが、ここ最近は60に満たないうちに痴呆が入ってきてるのかとも心配もしていたが、それで社長業が務まるわけがないもんな。いろんな集まりに出たりしている人だから、こういう予約を忘れるわけがない。社長になって底辺が見えなくなってきたようだ。いまどきの会社ではあってはならないことだよ。うちもその会社にはお世話になっていたよ。前社長の世代からね。底辺をバカにしだしたら会社そのものにも損害が出てくるよ。その社長と同期の営業マンがうちによく来てくれていたが、ぽつりと「社長はいいですよねぇ。」この言葉がすべてを物語っていたのかもしれない。俺もなるべく人は切りたくないよ。俺自身、人間が出来てるなんてことも決してないけどな。感情的になっちゃだめだと言い聞かせていただけだ。道場を去った人間で常識をわきまえることが出来なかった人間も何人かいる。首を斬ることで体裁を繕えるなんて思っちゃいない。常識をわきまえたうえでの人間だ。空手をやったから人間が出来てくるなんてことはないよ。小さいことでは動じなくなるけどさ。