少年部の龍生くん

入門して3年。とにかくこの子はおとなしい。完全に無口ってやつだ。時々笑わせようとギャグを飛ばしても表情をほとんど変えない。ちょっと変わっただけでも良かったと思うしかなくてな。練習は週2回。大会は出ないが、へこたれることもなく今まで頑張ってきている。技術的にはとにかく柔らかい。強いと言うイメージはないが、上手いの一言だ。無口というけど、実は学校では突っ込みどころを心得ていて人気抜群と聞いた。そういう意味では組手も突っ込みがうまいという感じだな。もちろん人の動きをよく見て、それに合わせて動く。俺のやっている居合の考えを空手で引き継いでいる。最初は心配だったよ。入門した時はね。おとなしいし、練習についていくのがやっとのような気がしてさ。当時はこんなにおとなしい子を預かったことがなくて、どうしていいかもわからなかったが、どことなく道場生と息を合わせたり楽しそうにしているところは感じた。もちろん無表情だけどな。とにかくあまり構いすぎないようにしたよ。父親の言う話、自分も信じられないくらい空手の練習は辞めずにやってきたと言う。今年は中学生。部活があるからまだはっきりはしないけど、続けたい意思はあると言っていた。こういう強さの方が本物だよ。大会での強さとかはてっとり早い証明にしかならないからな。大会では案外精神面が弱い人間でもまかり通ってしまう一面がある。俺は道場に大会以外で強さを発揮できる生徒も育てたいと思っていたが、龍生くんがそうなるとは思ってなかったなぁ。俺も大会には不向きだったが、龍生くんとは反対だ。空手の枠に収まりきらなかったんだよ。無門会の夏合宿なんかで一発いいのをもらって逆上して相手を追いかけまわしてたよ。よくそれで師範になれたもんだよなぁ(笑)。でも会長は俺の冷静な観る目を買ってくれていたな。俺はそんな冷静さなんてかけらもねぇと思ってたけどさ。