体験入門

日大工学部に通う大学生が空手の体験入門に来た。本人が10年前にフルコンタクトルールの空手を3~4年ほどやっていたそうで、組手がやりたいとのことだった。ならばと総合格闘技をやることに。時間が合えばうちに通う高校生と一緒に稽古できるもんな。3~4年ほど経験していたというからある程度は動けるかと思ったが、形は全然やらなかったそうだ。だから忘れちゃってる感じだね。形を教えない道場もあるし、俺も無門会に在籍中は形は全くなし。早い話が基本稽古はウォーミングアップくらいだった。そうなると試合に勝つことに全集中しちゃう。そうなると年齢が重なって、組手が出来なくなった時にどうやって技を伝えるの?っていうことになっちゃうんだよ。俺は清心流で教わったからよかった。形を教えておけば、試合に向かない子も伸びていくし、試合向きの子も育つ。勝つことに集中すれば、隙が出て負けることにもなる。うちではそういう教え方はしていない。それこそ時間はかかるが、負けないことを主体にしている。負けないことと勝つこと一緒じゃんという人がいるけど、負けない考えは隙を生まないからね。逆に相手に隙があれば勝てるのだ。勝気は同時に油断を生む。この大学生も違いが理解できたので、楽しかったみたいだ。これを理解できねぇ指導者が実際いるんだからねぇ。素人ならまだしも恥ずかしくないかねぇ。いや、素人だって考えりゃわかることだ。気づかねぇから恥ずかしくはないか。

俺は若いころ強さだけを求めていて、それこそ勝気だったなぁ。でも、同時に負けぬためにと防御を念頭に置いていたんだよ。それが良かった。いま、それが幸いしている。強さだけを求めていた時、息詰まると虚しさばかりが襲ってきてね。孤独感と一緒にさ。それを乗り越えるには勝ち負けにばかりとらわれるのはよくない。